Re:Birth

Livin' as an ice-age-generation

6.転換期

再出発

新しい職場は、入居者数150名、職員数約40名のサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」だった。

以前勤めていた有料老人ホームに比べて規模が大きく、入居者さんのタイプも仕事の進め方も違って戸惑うことが多かったが、個性的で楽しい仲間に恵まれて職場にはすぐ馴染むことができた。

順調に仕事を覚えて正社員になると、仕事ぶりが評価されて複数のフロアを受け持つリーダーに昇格した。 

リーダーになると現場の介護業務に加え、担当するフロアの管理業務や委員会活動、毎日20名ほど出勤するスタッフの訪問介護の予定を組んだりと仕事内容は多岐に渡り多忙を極めたが、次々に課題をこなしていくことが楽しくて毎日が充実していた。

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施設長も私がやりたいことをサポートしてくれたため、仲間と一緒に職場環境の改善に努め、毎年全施設で行われるワークショップのファシリテーターにも抜擢されて、大勢の前でプレゼンをすることもあった。

ひたすら無我夢中で仕事に打ち込むなかで、施設長になる話を頂くようになった。

嬉しい反面、自分の将来が何となく見えたような気がして、少し足を止めて考えた。
「ここでもし施設長になれば生活は安定するが、施設だけで人生を終えることになる。
果たしてそれでいいのか?
やり残したことはないか?

そして、ある日事件が起きた。

いつものように食堂で配膳を手伝っていた時、入居者さんに誤って別の方のビタミン系の栄養剤を手渡してしまったのだ。
その方は私の担当外のフロアに入居したばかりでまだ顔と名前が一致しておらず、私が名前を呼ぶとその方が返事をしたので渡してしまった。
テーブルの名前を見て間違いに気がついた時にはすでに遅く、栄養剤をゴクリと飲み込んでしまっていた。

すぐにナースに報告すると「栄養剤だから全然問題ないよ。」と言ってくれたが、私はリーダーの立場上施設長にも報告しようと思い、ありのままを伝えた。 

その日の午後、施設長から食堂に呼び出された。
食堂に入ると、休憩時間中のスタッフが食事をとったりしてくつろいでいた。
そしてスタッフが注目する中で、施設長から事実確認が行われた。 

いくら説明しても「どうして名前を間違えて配ったのか。」と何度も突き返され、次第に返す言葉が見つからなくなり、最後はただ謝罪するしかなかった。 

「栄養剤とはいえ、誤って配ったことは大きな過失であり、十分に反省している。
誤飲後はすぐナースに報告し、指示を仰いで適切に処置するように努めた。
他にどんな方法があったのだろうか。
反省して謝罪してもなお執拗に追い詰めるのは、むしろ黙っていた方が彼にとって都合が良かったということなのだろうか。」

この時いろんな思いが頭の中を駆け巡った。 

「しかし私がもしあの時報告せず自分をごまかしていたら、今後もずっと自分をごまかし続けるようになるだろう。
そうなれば今まで積み上げてきた努力がすべて砂山が崩れるように跡形もなくなってしまう。
それに純粋な気持ちで介護の世界に入った頃の自分を裏切ることになる。

やはり、あの時の判断は正しかったと信じたい。

こう思った瞬間、施設長に対する信頼は大きな皿を落としたように真っ二つに割れた。
そして後日、辞表を提出した。

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退職後、かねてから紹介を受けていたサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に転職した。

以前と異なる点は、入居者数50名と小規模であることと、デイサービスが併設されていることだった。

「施設の仕事」「デイサービスの仕事」を兼任しなければいけなかったため、最初は覚えることが多く大変だったが、職場の人は皆親切な人ばかりだったので順調に仕事を覚えることができた。

仕事を一通り覚えた頃、世の中は民主党政権から自民党政権に変わり、時代の変わり目を直感して「株式投資を始めるチャンスだ」と確信した。

ねじれ国会が解消されて長期政権になり、日経平均株価底値なのでおそらく外資が一気に流れ込んでくるだろう」と思ったからだ。
この読みは当たり、後にアベノミクスと呼ばれるようになった。

ある銘柄を取得したところ、みるみる株価が上がり、ついに10倍以上の株価をつけた。
さらに信用口座を開設して株の売買を繰り返すうちに毎日が給料日のような状態になり、1日で100万円以上稼ぐこともあった。

次第に金融経済と実体経済は全く別物であることがわかり、機関投資家が相場を作る現実を知ってお金に対する価値観が根本的に変わった。 

一通り欲しい物を手に入れてしまうと、次第にモノからコトに関心が移っていった。
国内や海外に行って写真を撮ったり、SNSなどで世界の人と交流したりして海外の友達もできた。

夜勤明けに香港に行って、帰国してそのまま出勤するなどが生えたように自由に飛び回った。

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そして新しい出会いや経験を通して世の中を知れば知るほど、世界がいかに多くのまだ知らないことに満ち溢れているかを実感した。
スポットライトに当たらない影の部分は自分から見えていないだけで実は存在し、その世界を知るためには思い切って飛び込むしかない。
そうすることで影の部分に新たなスポットライトが当たり、自分の地図がアップデートされる。

そう考えると、世界だけでなく自分自身の中にも影の部分がたくさんあることに気が付いた。

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世界を知ることは、自分を知ることでもある。
この命が消える前に、自分が何者であるかを知りたい。

そして、自分の人生を生きてみたい。

 ある時、入居者さんはこうつぶやいた。

「若い時はお金はあるけど、自由はある。でも今はお金はあるけど、自由がない。できる時に何でもやっておいた方がいいよ。やって失敗した方が、死ぬまで後悔するよりもマシだから。 

「自分にとって今しかできないことは何だろう?」

そう思った時、不登校の時からずっと抱いていたである海外一人旅が浮かんだ。
「今なら投資で得たお金は十分ある。年齢も30台半ばだし、時間体力もある。もしこのチャンスを逃したら二度とできないかもしれない。」

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 後悔のない人生を送るために海外一人旅を決意した。

 

tayutai0001.hatenadiary.jp